讃
 
■吉田光彦×丸尾末広
吉田: 山川惣治とか小松崎茂とかあこがれてましたね。
(中略)
吉田: 伊藤彦造の挿絵って見ていて気持ちがいいよねぇ。
丸尾: フワーッってしてるでしょ。
吉田: そう、あの緊張感がなんともいえないですね、すごく気持ちがよくなる絵ですね。
丸尾: 神業ですよ、あのペンタッチは。ずっと前に新宿でやってた彦造の挿絵展を見に行って、その時初めて原画を見たんですけど、「わーっ凄いなぁ」って。どうすればこんな斜線が引けるんだろうって思いましたよね。斜線てガチャガチャ引くと汚い感じになってしまうんだけれど、全然そんな感じがなくてね。淀みがないというか、とにかくフワーッとしていてツルツルなんですよ。
吉田: それにすごく色気がある絵でしょ。あれが大きな魅力ですよね。イラストにしても挿絵にしてもそういう部分がないとね。
丸尾: でもああいう時代劇の挿絵って難しいですよ。画一的に描くわけにいかない、時代劇っていう大雑把なイメージがあるでしょ。それで描いちゃうと間違えちゃう。
(中略)
−今は細かく描く代わりにスクリーントーンをやたら使う人もいるけど。
丸尾: もうなんでもあるよね。
吉田: たまにカーテンの模様に使えそうなものもあるんだけれど、結局使えない。布って皺がよるじゃない。あれはやっぱり皺に沿って模様を描かないと、絵として見たとき、シックリこないんですよね。
(中略)
丸尾: やっぱり模様は皺に合わせていちいち描かないとダメですね。前に時代劇の挿絵を初めて描いたとき、一番大変だったのは着物の模様でしたね。一枚絵だったらそうでもないけど、ワンカットずつ模様を描かなきゃいけなくて、だから時代劇って本当に大変だなって思って。
−絵の達者な人って洋服の皺がすごく自然に描かれていますね。未熟な人は関節部分だけに妙な線が入っているだけで。
丸尾: そうそう、ズボンなんかはピチピチになっててドンクサイんだよね。でもやっぱり彦造は皺なんかは抜群にうまいよね。それに僕らは着物で生活してないから、着物の知識って乏しいでしょ。でもあの当時の人たちは身近にあったわけだから、山口将吉郎にしたって自然に描けているから。着物の皺って難しいですよ。シャツと違ってダボダボしてるから、腕をあげたとき皺は位置によるのかとかよくわからない。
 
(挿絵画家受難時代を語る「吉田光彦×丸尾末広」より抜粋)